ゆるふわ系ザリガニの生存記録

ゆるふわ系ザリガニ(ヒト)が生きた証を残します。

豚と私

ベッカーズがなくなる。

どなようなもにもライフサイクルがあり、開店する店があれば閉店する店もある。

閉店といえば、いきなりステーキ、伝説のすた丼屋。

伝説のすた丼は職場の近くにあって何度か行った記憶があるが、味に覚えが無いので凡庸だったのだろう。

だって、松屋の牛丼の味はおぼえている。

 

覚えていない味といえば、平日昼時は並ぶトンカツ屋だ。

職場の近くにあったそこは、たまたま早昼ができた日に行く機会があった。

カウンターに通され、トンカツ定食を注文する。

私は豚の分厚い脂身が好きでは無いため、大抵、トンカツは両サイドを先に食べてしまうか、

あまりに脂臭い、脂身が多い場合は、一部を残すこともある。

 

その日、いつものようにトンカツを食べようとしたところ、カウンターの向こうにいた佐藤二郎似のトンカツ職人が私を凝視する。

そして、佐藤二郎のような作り笑顔でこういうのだ。

 

 

トンカツは左から順に食べてくださいね。

 

その後の蘊蓄はあまり覚えていない。

確か、脂の乗り方だったか肉質だったかがあり、その順番を守ることは美味しか食べるために重要なのだという。

 

佐藤二郎似の職人が私の食べる様を監視するので、

支持通り食べた。

 

しかし、一刻も早くこの店を出たかった。

 

この佐藤二郎似の看守から、早く逃れねばならない。

 

……

 

彼の指示通りに、トンカツが美味しくなるために必要な順序でトンカツを食べたはずなのに…

全く味の記憶がない。

 

唯一の記憶、トンカツ職人佐藤二郎似の作り笑顔ーー

 

味にこだわる監視の結末は、豚の浮かばれぬものであった。